蒲田でせんべろと聞くと、立ち飲み屋のカウンターでホッピーを飲みながら、もつ煮込みをつつく光景を想像する人が多いだろう。
しかし、蒲田のせんべろは立ち飲み屋だけではない。
今回訪れたのは、JR蒲田駅西口から歩いて数分の場所にある金春新館。蒲田名物の羽根付き餃子を楽しめる中国料理店である。
金春といえば、京急蒲田側にある本館が有名だ。だが今回は、本館ではなく新館。
しかも目的は、豪華な中華料理の宴会ではない。
注文したのは、ハイボール480円と焼き餃子380円。
合計は、なんと860円(税抜)。
千円札を一枚出して、お釣りも返ってくる。
つまり金春新館では、蒲田名物の羽根付き餃子を食べながらハイボールを飲み、それでも千円以内に収まるのである。
これはもう、せんべろというより、蒲田が肝臓に対して用意した福利厚生ではないだろうか。
金春新館は蒲田駅西口側にある
金春新館は、JR蒲田駅西口から商店街方面へ歩いた場所にある。

蒲田駅から京急蒲田までは歩けない距離ではない。しかし、飲酒後の10分は、通常時の10分とは違う。
酒を飲む前なら「少し歩けば着く」。
酒を飲んだ後は「京急蒲田って隣の市だっけ?」となる。
その点、蒲田駅西口側で金春の羽根付き餃子を食べられる新館はありがたい。
店内は立ち飲み屋ではなく、しっかりとした中国料理店。テーブル席が並び、複数人での食事や宴会にも使えそうな雰囲気がある。
そんな店で、ハイボールと餃子だけを注文する。
少し申し訳ない気もするが、こちらは真剣である。
今日は860円で蒲田を味わうのだ。
ハイボール480円でせんべろ開始
最初に運ばれてきたのは、480円のハイボール。

氷の入ったグラスから炭酸が立ち上り、見るからに餃子との相性が良さそうである。
一口飲むと、炭酸の刺激とウイスキーの香りが広がる。
うまい。
蒲田の中国料理店で飲むハイボールには、なぜか説得力がある。
おしゃれなバーのハイボールは、香りや余韻を静かに楽しむものかもしれない。
一方、金春新館のハイボールは違う。
これから来る餃子を受け止めるための準備運動である。
まだ餃子は届いていない。
それなのに、すでに満足しかけている。
人間の幸福は、意外と480円から始まる。
焼き餃子380円とは思えない存在感
しばらくして、焼き餃子が運ばれてきた。

価格は380円。
しかし、皿の上に現れた餃子は、価格以上の存在感を放っている。
餃子の周囲には、大きく薄い羽根が広がっている。羽根というより、餃子たちが巨大な一枚のせんべいを共同所有しているような見た目だ。
まず、羽根の端に箸を入れる。
パリッ。
軽い音とともに羽根が割れる。
香ばしく、軽い食感で、これだけでもハイボールのつまみになる。
続いて餃子本体を持ち上げる。
皮はもっちり。中には肉と野菜の餡が詰まり、一個でもしっかり食べ応えがある。
パリパリの羽根。
もっちりした皮。
ジューシーな餡。
シュワッとしたハイボール。
口の中で、蒲田の小規模な祭りが始まる。
ハイボールと羽根付き餃子は相性がいい
羽根付き餃子といえば、ビールを合わせる人が多いだろう。
もちろんビールも合う。
だが、ハイボールもかなり良い。
餃子には、皮と餡、そして焼き油のコクがある。そこへ炭酸の効いたハイボールを流し込むと、口の中がさっぱりとリセットされる。
すると、また次の餃子が食べたくなる。
餃子。
ハイボール。
羽根。
ハイボール。
また餃子。
この循環が完成すると、千円未満とは思えない満足感になる。
しかも、金春新館の焼き餃子は、単なる軽いつまみではない。
皮がもっちりしていて、一個一個に存在感がある。食べ終わる頃には、酒を飲んだだけでなく、ちゃんと食事をした感覚も残る。
飲んだ。食べた。座れた。それで千円未満。
かなり優秀である。
千円以内なのでお釣りも帰ってくる
今回の会計は以下のとおり。
- ハイボール:480円
- 焼き餃子:380円
- 合計:860円(税抜)
千円札を出せば、お釣りが返ってくる。
これが妙にうれしい。
最近は「せんべろ」と書いてあっても、実際に注文すると1,200円、1,500円になることも珍しくない。もはや“せんべろ風”である。
しかし金春新館では、本当に千円以内。
せんべろ界のルールにかなり忠実だ。
ただし、ハイボール一杯で本当にベロベロになるかどうかは、その人の体質による。
酒に弱い人なら十分仕上がる。酒に強い人なら、気持ちよく一杯飲んだくらいだろう。
とはいえ、せんべろの価値は、完全に泥酔することではない。
千円以内で、酒とつまみを楽しみ、「今日もなんとかやっていけそうだ」と思えることにある。
その意味で、このハイボール餃子セットはかなり完成度が高い。
最大の敵は追加注文したくなる気持ち
金春新館でせんべろするとき、最大の敵は価格ではない。
ほかのメニューである。
餃子を食べ終える頃、周囲から中華料理の香りが漂ってくる。
チャーハン。
麻婆豆腐。
エビチリ。
水餃子。
小籠包。
どれもこちらを見ている。
「せっかく中国料理店に来たんだから、もう一品くらい頼んでもいいのでは?」
そう思った瞬間、せんべろは終了する。
水餃子を追加すれば千円を超える。ハイボールをもう一杯飲めば、普通の中華飲みになる。チャーハンを頼めば、完全に夕食だ。
だが、それでもいい。
せんべろは法律ではない。千円を超えたからといって、蒲田駅前で反則切符を切られるわけではない。
追加注文したい人は、素直に蒲田の夜へ沈んでいけばいい。


