「蒲田に着いたよ」で会えない街。JR蒲田と京急蒲田の、地味に遠い関係

「蒲田に着いたよ!」

待ち合わせ相手からの連絡に、「私も!」と返す。ところが、改札前を見渡しても相手がいない。電話をかけて、お互いに手まで振ってみる。それでも見つからない。まさか同じ蒲田の別世界に入り込んだのか。そんな想像をする前に、一つ確認してほしい。

それは、JR蒲田ですか。京急蒲田ですか。

蒲田に馴染みがある人には当たり前でも、初めて来る人には案外伝わっていない。JR蒲田駅と京急蒲田駅は、別の場所にある駅だ。「同じ駅のJR側と京急側」という感覚で来ると、待ち合わせが急に難しくなる。同じ建物の反対側を探しても、相手はいない。もう少し大きな範囲で考える必要がある。

地元で使い慣れている人なら、「蒲田で飲もう」と言われても、店の場所や相手が使う路線から判断できる。曖昧なら「JR? 京急?」と確認する。その区別が生活に組み込まれているので、逆に、区別そのものを知らない人がいることを忘れがちだ。

一方、初めて来る側の気持ちもわかる。どちらにも「蒲田」と書いてあるのだから、近くに着くだろうと思うのは自然だ。頭の中ではすでに餃子を注文していて、駅名の前についた2文字までは気が回らない。こちらとしては「蒲田」をちゃんと確認している。確認した結果、違う蒲田に着く。なかなか納得しづらい仕組みである。

JR蒲田駅と京急蒲田駅は地味に離れている

大田区の資料では、JR・東急蒲田駅と京急蒲田駅の間は約800メートル、徒歩約10分と案内されている。歩く経路や信号待ち、どの改札から出るかによっても変わるが、少なくとも「隣の入口でした」で済む距離ではない。

800メートル。散歩なら、どうということはない。天気がよく、時間もあれば、ちょうどいい街歩きだ。しかし、待ち合わせ時刻を過ぎてから発覚する800メートルは、急に存在感を増す。夏なら汗をかくし、雨なら傘がいる。仕事帰りの足には、そこそこ響く。頭の中ではもう乾杯していたのに、現実ではまだ移動の続きがある。

「近いから歩いてきて」と言う側と、「近いって言ったよね」と思いながら歩く側。その間にも、もう一つ距離が生まれる。先に店へ入るなら、最初の一杯を注文するタイミングには少し配慮したい。ようやく着いた相手の前に半分減ったジョッキがあると、駅の問題が友情の問題に発展しかねない。

もっとも、急いでいなければ、駅と駅の間を歩くのも悪くない。駅前だけ見て帰るより、街の様子がわかる。飲食店の看板を眺めて、「ここもよさそうだな」と次の候補を見つけることもあるだろう。ただし、相手を待たせている最中に新しい店を開拓し始めるのは、別件で怒られるので気をつけたい。

さて、この「同じ蒲田なのに、地味に遠い」という関係、将来は変わるかもしれない。2つの蒲田を鉄道で結ぶ「新空港線」、通称「蒲蒲線」の計画が進んでいる。

名前がいい。蒲田と蒲田をつなぐから蒲蒲線。こちらが感じていた不便を、そのまま名札にしたようなわかりやすさだ。ただ、内容は待ち合わせの救済にとどまらない。東急線側から京急蒲田方面への移動を便利にし、将来的には羽田空港方面への接続も目指す、鉄道ネットワークの構想である。

まず進められている第一期では、東急多摩川線を地下化し、蒲田駅を経由して、京急蒲田駅付近の地下に設ける「蒲田新駅(仮称)」まで結ぶ計画だ。「JRの電車がそのまま京急に入る」という話ではなく、東急側の路線を延ばして、2駅の間を鉄道でつなぐイメージになる。

単なる「いつかできたらいいね」という話より、計画は具体的になっている。2025年10月には国による計画の認定を受け、大田区の案内では開業を令和20年代前半に予定している。ただし、京急空港線方面への第二期は引き続き検討中。第一期ができれば、そのまま羽田まで直通できると決まったわけではない。

実現すれば、雨の日や荷物の多い日の移動は助かりそうだ。今は自分の足で埋めている駅間に、電車という選択肢が加わる。2つの蒲田を行き来する感覚も、少しずつ変わっていくのだろう。

とはいえ、つながったとしても、待ち合わせ場所の確認は必要だ。「蒲田に着いた」だけで必ず会えるようになるとは限らない。便利な交通機関ができても、人間のメッセージは相変わらず省略される。

だから、当面の合言葉は「JR? 京急?」。初めて来る友人には、この一言を添えておきたい。800メートル歩いてから飲むビールもおいしいだろうけれど、できれば運動するかどうかは本人に選ばせてあげたい。

2つの蒲田が鉄道でつながる日を楽しみにしつつ、今日のところは、待ち合わせのメッセージを少しだけ丁寧に。「蒲田で飲もう。JRのほうね」。この数文字で、乾杯が10分ほど早まるかもしれない。

  • 蒲田スミ子

    本業ではまじめな顔をして働いているOL。蒲田を愛し、蒲田に疑い、最終的には蒲田に帰ってくる人。駅前の雑多な空気、羽根つき餃子、黒湯温泉、昼から飲める店、そしてどこか人生の裏口に通じていそうな路地をこよなく愛している。

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